2015年11月1日日曜日

彼女の壮絶な過去






















ミランダ「病室にしてはちょっと派手すぎない?」

アイビー「そうですか?」

ミランダ「普通はね。」















アイビー「ミランダさんにはこういうお花が似合うと思って。」














ミランダ「私に似合う、ねぇ・・・。」

アイビー「はい。」













アイビーがベッドサイドのイスに腰掛ける。


ミランダ「ねぇ、なにか話して?」














アイビー「話?私の?」

ミランダ「そう。」

アイビー「・・・どういう話がいいですか?」














ミランダ「ロミオとの出会いは、BiBiのスタジオだったのでしょう?」















アイビー「はい。・・・初日の撮影のことは、すごくよく覚えてます。」

ミランダ「どうして?」












アイビー「それまで私、ティーン誌のモデルで・・・、BiBiの他のモデルが辞めた後釜で入ったんですけど、・・・初日の撮影でいきなり露出度の高い衣装だったんですよね。」

ミランダ「まぁ、BiBiではよくあるわね。」

アイビー「はい。でもそれまでそういう経験がなかったから・・・・今思えば子供だったと思うんですけど、撮影拒否しちゃったんですよね。」











アイビー「それでロミオに、やる気ないなら辞めちまえって、厳しく怒られちゃって・・・撮影は無事に終わったんですけど、ロミオは最初怖い人かと。」

ミランダ「ふふっ。見た目が厳ついものね。」

アイビー「はい。でも、たまに意外な一面があったりして・・・・気付いたら好きになってました。」

ミランダ「ギャップにやられたのね。」











アイビー「でも、どうしてロミオが私を好きになったのか、ちっともわからないんです。最初なんて、芋呼ばわりされてたんですよ?」















ミランダ「あの人、ああ見えて世話を焼くのが好きなのよ。あなたみたいな子がほっとけなかったんじゃないかしら?」















アイビー「・・・そうなんでしょうか?」

ミランダ「たぶんね。」














アイビー「ミランダさんのお話、聞きたいです。」















ミランダ「私の?」

アイビー「はい。」












アイビー「ロミオとは、孤児院で出会ったって聞きました。」

ミランダ「ええ。」

アイビー「ミランダさんのこと、いろいろ教えてください。孤児院ではどんな子供時代を過ごしたんですか?」














ミランダ「あの頃は目立たないように過ごしてたわ。それが一番賢い生き方だったから。私は子供の頃から病気がちで、園長にとって厄介者だったのよ。」

アイビー「孤児院のときの友達は?」

ミランダ「友達なんて呼べる人は、一人もいなかった。ロミオ以外はね。それにあの場所はもうないの。」

アイビー「ない?」










ミランダ「ええ。私が燃やしてしまったから。」

アイビー「・・・・。」














ミランダ「私が16、ロミオはまだ13歳だったわ。」
















ミランダ「3年に一度、園の全員、泊りがけでキャンプする慣わしがあったの。その年は夏にいろいろあって行けなくて、11月にやることになった。私とロミオは体調不良を装って園に残った。」

アイビー「・・・二人だけ?」

ミランダ「他にも2、3人いたわ。同じように風邪で行けなかった子たちが。私はその日をずっと待ち望んでた。みんなが寝静まってから、暖炉の火事を装って園に火をつけたの。」











ミランダ「ロミオとは子供のときに二人で園を出ようって約束していたけど、そのことは相談してなかったから、あまりにも急で、彼はすごく戸惑ってたみたいだった。」














ミランダ「でも私は違ったわ。ずっとこの日を待ち望んでいたし、3ヶ月も前から計画していたもの。園は丘の上にあったから、私たちは一晩かけて街まで歩いた。」

アイビー「・・・寝泊りはどうしたんですか?」

ミランダ「お金は少しだけど、用意してきたのよ。数日は漫画喫茶とかカラオケで寝泊りしてたわ。」














ミランダ「翌朝の新聞に火事のことが載ってて、逃げ遅れた子が一人死んだのを知ったの。ロミオの親友のラウルって男の子だった。」

アイビー「・・・・。」

ミランダ「ロミオはその記事を読んで吐いてた。あの人、あんな外見してるくせに中身はとってもデリケートなのよね。」












ミランダ「火事で園は全焼したわ。ボロい木造の建物だったもの。冬なんて隙間風が寒くて・・・。」

アイビー「みんなは、その後どうしたんでしょうか・・・。」

ミランダ「市が調査に入って、それまでの杜撰さが暴かれたの。園長は市からの交付金をほとんど自分のものにしていたし、子供たちの生活はホントに質素なものだったから。当然、園長や働いてた数名の大人たちは解雇されたわ。子供たちは、あちこちの孤児院に移って、みんなバラバラになったって聞いた。当時はニュースにもなったの。」

アイビー「ふたりのことは・・・。」

ミランダ「最初は行方不明ってことで捜索もされてたけど、園長の悪事がバレてからはすっかりネタにならなくなったわね。」












ミランダ「私たちは誰にも見つからないようにひっそりと生き延びてた。」

アイビー「・・・・。」

ミランダ「でも持ってたお金はほんの少し。お金が尽きるのに1週間ももたなかった。私はスリをやろうってロミオに提案したの。でも彼は頑なに断った。おなかはグーグー鳴ってるのに、これ以上絶対に悪いことはしたくないって。ラウルが死んだことを知ってから、私とはあまり口をきこうともしなかった。」











ミランダ「泊まるところもなくて、冬空の下、公園の真ん中で震えていたら、女の人に拾われたの。」

アイビー「女の人?」












ミランダ「当時のタレント事務所の社長だったわ。最初はとても綺麗な人だと思ったけど、あとで全部整形だって知った。50は過ぎてるらしいけど、とてもそうは見えなかったわ。」

アイビー「スカウト、ですか?」

ミランダ「ええ。タレントにならないかってね。真夜中の公園で震えている風変わりな私たち二人を見ても、境遇についてはなにも聞かなかったわね。きっといろいろ察してたのね。」











ミランダ「社長は安アパートを借りてくれたわ、私たち二人のために。生活費も、困らない程度にサポートしてくれてた。」

アイビー「いい人に拾われたんですね。」

ミランダ「それはどうかしらね。」

アイビー「 ? 」











ミランダ「メイクして、綺麗なドレスを着て、髪型も変えて、・・・・まるで自分じゃないみたいだった。これから芸能人として、華やかな世界で生まれ変わるんだって、そう思ったわ。身バレするのが怖くて髪の色を変えてみたけど・・・そもそもこんなに美しく変わった私を、誰も気付くはずなかったのよね。」












ミランダ「けれど・・・私の最初の仕事は、太ったおじさんに抱かれることだった。」

アイビー「・・・・。」

ミランダ「まだ16になったばかりだったわ。」












ミランダ「あとで知ったことだけど、私がベッドの相手をするおじさんたちは全員、政治家や弁護士、芸能界のお偉いさんばかりだった。はじめての相手が国会の中継に出ていたのを見たときは、さすがに驚いたわ。事務所は若いタレントの卵たちを、そうやって権力者たちに斡旋していたの。」












ミランダ「そんな毎日が1週間続いて、私は思ったの。このままこうして小汚い男たちに抱かれて、日の光も浴びないまま人生が過ぎていくのかって・・・。」














ミランダ「そう思ったら悲しくなった・・・。自分を哀れんだの。」















ミランダ「その晩帰ると、私はそのまま服を脱いでロミオの部屋を訪れたわ。」
















ミランダ「ロミオは新聞配達のバイトを見つけたばかりで、早くにベッドに入っていたからもう寝ていたけど、私の姿を見て驚いてた。」











ミランダ「あの人の前で涙を流したのは、それが最初で最後だった。」














ミランダ「ロミオは、寝ぼけながらもひどく困惑してた。ロミオにはなにも話さなかったから、困惑するわよね。」














ミランダ「私はそのままロミオをベッドに押し倒した。」















ミランダ「彼もまだ13歳だったし、はじめてだったから戸惑っていたけど、抵抗はしなかった。私は1週間で覚えた男を喜ばせる技で、彼を男にした。」















ミランダ「私も夢中だったわ、若い男の身体に。まだ13歳だったけど、身体はもう男だった。」














ミランダ「このとき初めて、私は快楽を知った。ロミオとの関係はそれからもずっと続いていたわ。若かったし、お互い猿みたいにやってた、昔はね。」












ミランダ「それから4年が過ぎて、私は売れっ子の映画女優になった。最初はモデルとして芸能活動をはじめたけど、女優のほうが合ってたのよね。芝居をすることは私にとっては自然なことだったもの。」













ミランダ「その頃、事務所を通じて私をバーに呼び出したのは、孤児院の教育係をしていたジョフリーだった。」
















ミランダ「彼は孤児院を解雇されてからもこの街に残っていたそうよ。深夜の警備員の仕事をして、細々と生活していると言ってたわ。当時は丸々と太って肌艶もよかったのに、痩せてまるで老人みたいだった。すっかり変わっていたわ。」












ミランダ「彼は私に金の無心をしてきた。断れば孤児院育ちだってことも、ロミオとのこともバラすって。」














ミランダ「呼び出されたときにこうなる予感はしてたわ。でも、彼にいろいろ聞き出せたから、逆によかったのかもしれない。この街に残っているのは彼と、当時の子供一人だけだってわかった。誰も私があのミランダだとは気付かない、俺は勘が鋭いんだって豪語してた。私は少しほっとしたわ。」












ミランダ「私ははじめての相手だった政治家と、その頃まだ時々会っていたわ。事務所を辞めるまでは、売れてからもそういう仕事をさせられていたし、彼は特別な客だったから。」














ミランダ「私は彼にとても気に入られていたの。だからこのことを彼に相談した。」














ミランダ「任せておきなさい、君のためならなんでもしてあげるって、彼は約束してくれた。」














ミランダ「それ以来、ジェフリーが私の前に現れることはなくなったわ。彼がなにをしたかはわからないけど。知る必要はないって、教えてくれなかったし・・・・まぁ想像はつくけれどね。」













ミランダ「政治家の彼は、当時大臣の座につくほどの大物だったから、私が事務所を辞めて独立してからも、いろいろとサポートをしてくれたわ。数年前に、脳梗塞で死んでしまったけれど。」














ミランダ「そしてジェフリーと会った夏から半年が過ぎた春、今度はジミーが私を呼び出した。ジェフリーが言ってた、街に残ったもう一人というのがジミーだったわ。」














ミランダ「彼はハカセって呼ばれてた。ロミオの親友だったわ。ロミオのひとつ上で、その年ブリッジポート大に入学したと言ってた。」














ミランダ「彼とはロミオを通じて子供の頃に遊んだことがあったから、少しだけれど懐かしい思い出話に花を咲かせたわ。本当に懐かしかったし、数少ない園での思い出だった。」













ミランダ「でももちろん、彼はそんな昔話をするために私を呼び出したわけではなかった。ジェフリーが行方不明になる前に、私に会いにきたことを知っていたし、彼からいろいろ聞いていたみたい。自分がいなくなったら、警察に行くように言われていると。」











ミランダ「ジミーは本当にジェフリーのことを心配していたわ。あんなに無意味な体罰を受けてきた昔のことを忘れたみたいに・・・。きっと、根が真面目でいい人なのね、ロミオと同じで。」












ミランダ「私は彼に、もう連絡しないようにと伝えた。」














ミランダ「彼はかなり困惑していたけれど、それがあなたの為よって言ったらもうなにも言わなかったわ。」













ミランダ「彼と会ったのはそれが最後よ。」






0 件のコメント:

コメントを投稿